先日、こんなご相談をいただきました。
「自社でAdobe PhotoshopとIllustratorを購入して、簡単なチラシ修正や写真の加工を自分たちでやろうと思っているんだけど、どう思う?」

理由としては、ほんの一行の修正や画像の差し替えでも、その都度広告代理店や制作会社へ依頼するのが手間であり、費用もかかってしまう。
「それなら自分たちでやってしまったほうが効率的では?」というお考えでした。

私からは、
「思っているほど簡単な話ではなく、実際のところ得られる効果も限られるかもしれません」
とお答えしました。

もちろん、「お客様が自社でやってしまったらこちらの仕事が減る」という損得勘定がまったくないわけではありません。
しかし、それよりももっと本質的な問題点があるため、慎重な検討をおすすめしました。
これから導入を検討されている非制作系・非IT系企業の方に向けて、その理由を以下にまとめてみます。

 

書体がない

これが最初にぶつかる大きな壁です。Adobeアカウントを取得すれば「Adobe Fonts」が使えますが、制作者が使っているフォントの中には、Adobe Fontsには含まれていないものもあります。
特に一般企業のPC(Windowsが多いと思います)に最初から入っているフォントだけでは、デザイン的に不十分なことが多いです。
フリーフォントもネット上にたくさんありますが、商用利用NGのものや、ダウンロード方法が紛らわしいものも多く、注意が必要です。

また、別のフォントに置き換えると文字の間隔やレイアウトが崩れることもあります。
フォント選びはデザインの印象を左右する重要な要素であり、経験や知識がないと意外と苦労する部分です。

 

アウトライン後データの編集は想像以上に大変

「フォントがないならアウトライン後のデータを編集すればいい」と思われるかもしれませんが、これも意外と手間がかかります。

アウトライン化とは、文字を“文字情報”ではなく“図形”に変える作業のこと。
つまり、修正したい文字を入力し直すことはできず、パズルのように配置を調整したり、他の箇所から同じ文字をコピーして高さを合わせたりと、細かい作業が必要になります。
慣れていない方には、かなり骨の折れる工程です。

 

ソフトの使い方は簡単ではない

IllustratorやPhotoshopは高機能な分、操作項目が非常に多いです。特に「レイヤー」の概念に慣れていない方は、最初の段階でつまずくことが多い印象です。
どのレイヤーに文字があるのか、ロックがかかっていないか、非表示になっていないかなど、確認すべき点が多く、慣れるまで時間がかかります。
また、プロはショートカットを多用して効率化していますが、メニューから探して操作する場合は、かなりの時間がかかるでしょう。

 

パソコンのスペックが足りない可能性

Adobe製品は総じて動作が重いです。事務処理向けに購入したPCでは、作業中に動作が遅くなったり、最悪の場合は保存前に落ちてしまうこともあります。
IllustratorとPhotoshopを同時に立ち上げ、ブラウザや他のアプリも使っていると、処理が追いつかず業務全体に支障をきたすケースもあります。

 

データ容量と保存スペース

制作データは想像以上に容量を消費します。チラシなど印刷物のデータは、画像が多いと数百MB〜GB単位になることも珍しくありません。社内サーバーやクラウドの容量を圧迫するリスクもあるため、保存体制も検討が必要です。

 

PhotoshopはIllustratorとは別物

Illustratorは比較的触りやすいですが、Photoshopはまったくの別物です。Illustratorは「ベクター」、Photoshopは「ピクセル」データという異なる構造で動作します。

また、印刷用データでは「CMYK」、WEB用では「RGB」と、色のモードも異なります。
この違いを理解していないと、印刷した際に「思っていた色と違う」というトラブルに繋がることもあります。
最近はSNS運用などを中心に行う企業が増え、制作経験の浅い担当者が色設定を誤るケースも散見されます。

 

元データの取り扱いにも注意が必要

自社で編集するには「元データ」が必要になりますが、これは制作会社にとっては著作物そのものです。そのため、**元データの提供には追加費用が発生する**のが一般的です。
もちろん、長年の信頼関係がある取引先であれば柔軟な対応もありますが、原則として制作費とは別扱いになります。
「データを買い取る」ことのコストも含めて、導入判断を行う必要があります。

 

こうして見てみると、導入には思った以上のハードルがあることが分かります。
ツールの使い方を調べながら試行錯誤する時間や、その間の業務効率を考えると、
「少しの修正でもプロに任せたほうが結果的に早くて確実」
というケースが多いのも事実です。

MacとWindowsのデータ文字化け問題についても、エンコードの設定やZIP圧縮方法を工夫すれば回避できます。
WindowsでもMacでもZIPファイルを文字化けせずに解凍する方法 – togeonet.co.jp

また、何人が使用するかにもよりますが、Adobe製品はサブスクリプション形式のため、毎月のランニングコストも発生します。
「軽微な修正がどれほどの頻度で発生するか」を冷静に見直してみると、意外とコストに見合わない場合も多いです。

結果的には、安心して任せられる制作パートナーに依頼したほうが、品質もコストも安定すると私は考えています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください